恋文

ずっと書こうかどうか、迷っていた
わざわざ書かなくても、とも想っていた
でも、火を見つめていると、やっぱり書きたいと想った


1985年より2001年まで20年あまりのTBS放送のドラマ
向田邦子新春シリーズ(新春スペシャル)」は正月の楽しみだった
彼女の随筆が原案で、設定は昭和10年前後の東京・山の手(池上近辺)の
つねに女性だけの一家、
母、娘3人で母(役名=さと子:加藤治子)、長女(田中裕子)は毎回、変わらないけれど、次女、三女はその都度若い役者が出演
そして、重要な役割の男優が小林薫

向田邦子に関わるすべてのドラマや映画を見ているキリコにとって、
それが久しぶりに復活して放映されるというので期待したのだけれど
1月2日放映の”花嫁”は・・・正直がっかりだった
渡る世間・・・のメンバーでは単なるホームドラマでしか無い


今までの金子成人・脚本、久世光彦・演出、音楽・小林亜星
が創りだす作品は、男と女、母と娘、姉妹同士の微妙な心の動きが見事に描かれていた
脚本の巧みさとあざやかな演出、心の動きを感じる音楽
そして役者陣の演技は、テレビ・ドラマの枠をはるかに超越して
他のホームドラマの群を抜く秀逸だった
彼女の大人の恋物語の「あ・うん」のように、踏み込んではいけない領域を行ったりきたりするような危うい関係も描かれていた
そこには、彼女自身の秘めた恋も投影されていたのかもしれない
いや、彼女と言うより、彼女と20年近く仕事をしてきた久世光彦の想いが
投影されていたのかもしれない
彼が演出した最後のドラマ「向田邦子の恋文」は切なくも潔い恋を描いた作品だった
これは彼の彼女への恋文だったのだと見終わった時、思ったものだ


「熱い肌を幾度合わせたって何もわからない人もいる
指一本触れもせず、十年経ってしきりと恋しい人もいる」
               1992年・ 久世光彦・触れもせで


なんでだろう、この頃しきりと向田邦子の”秘めた恋”と久世光彦の”秘めた想い”が浮かんでくる