私、ときどき想うの

私の名前?
呼ばれたこと無いから、ななしの名無子(ななこ)でいいわよ

]そうね、キリコさんと出会って13年になるかな〜
私、生まれも育ちも茨城県の笠間、笠間焼の食器の店の隅っこにいたの
地味な服装で、髪の毛はひっ詰め、細い目とツンとした鼻と・・・
おまけに、そばかすだらけの顔で、口も手も無いのよ、ひどいでしょ
自分でも、なんでこんなふうな姿なのって想ってた
だから、長い間、一人ぼっちでいたの


そう、あれは寒い雪の日だったかな
旅行の途中で店に立ち寄ったキリコさんがふと私の方を見たの
側に来て座って、尖った鼻をつんつんとゆびでつついた
フン、からかいに来たの?
でも、私は丁寧に包まれて、キリコさんの手に渡された


後から知ったんだけどキリコさんは小さい頃からお人形って欲しがったことないんだって
それなのに、あの時なんでこんな私に目にとめてくれたんだろう

暫くして、キリコさんは東京の家を出ることになった
少ない荷物の中に私も入れられて・・・


それから、又、暫くして、私は箱の中から出され朝日が眩しい部屋のチェストに置かれた
キリコさん、泣いたり、笑ったり・・・大阪弁で取っ組み合いの喧嘩もしてたっけ
でも、楽しそうだった
それから暫くして、又、私は箱に入れられた
いったい、何箇所、転々したのかな〜


そして、やっと落ち着いたのが5年前、玄関を見つめる飾り棚が私の場所
人の出入りを黙って見ている
時々、キリコさんがお客様を見送った後、ニコッとして私を見るのよ


私、時々想うの
キリコさんは私のツンとした顔が好きなんだなと
変に優しく微笑んでいるのではなく
何があろうとも、悠然と遠くを見つめている
そんな私を気に入ってくれたんだと


涙いっぱいためた目で、私、何回も見つめられたけど
キリコさんの気持ち、手に取るようにわかっていたけれど
一緒に涙流すのは、私の役目ではないんだと・・・
だから、私は歯を食いしばって涙は見せなかった
そうしてるとキリコさん、涙を拭いて私を見つめ、いつものようにつんつんとつつくの
ごめんね、心配かけたねって感じで
そんな時、私は少〜し微笑むんだけどね]
キリコさん気がついてるかしら?