”OUT”と”保険金連続殺人事件”

OUT

元看護師による連続殺人事件の主犯格と言われる女性に5月17日、福岡高裁は死刑判決を下した。
このニュースを目にして思ったのは、似たようなミステリー小説を読んだな、であった。
この事件がおきたのは、98年1月。似たような桐野夏生の小説”OUT”が上梓されたのは97年7月。小説が先行しているが、類似点は「女性(主婦)4人が夫を殺した」という点である。

  • 保険金連続殺人事件

98年1月から翌年3月にかけて福岡県久留米市の元看護師女性4人が保険金目的に自分達の夫二人を「殺害」したという事件。
特異な点は、主犯格の看護師が同僚を誘い、その同僚の夫を「殺害」し、同じパターンで二人目も「殺害」したという点、殺害方法も静脈に空気を注入したり、洋酒を医療用チューブで胃に流し込んで「殺害」したり、残虐巧妙なところである。
この事件に係わったという看護師女性4人の心理状態をつい”OUT”の主婦4人にオーバーラップしてしまう。”女性の心のひだ”を解明するためには、小説にヒントを求めないともやもやとした気持ちのまま終わってしまいそうである。
ちなみにこの事件をテーマにした小説”黒い看護婦”はすでに発行されている。

桐野は99年に”柔らかなほほ”で第121回直木賞をゲットしている。”OUT”はエドガー賞に日本人としてははじめてノミネートされた。
ミステリー作家としては第一人者だろう。女性を主人公にした「狂気」と「絶望」をメインにして展開されるストーリーが多い。

  • ”OUT”のストーリー

深夜の弁当工場で働く4人の主婦は「こんな暮らしから抜け出したい」との思いが共通している。姑の介護、借金、夫の暴力、子どもとの不和などの日常から。
主人公雅子は同僚たちと夫の死体をばらばらにしてゴミの日に捨ててしまう。男は二人登場する。桐野の手法によくある「出稼ぎの外国人」と主人公と心底は繋がっている性的快感としての残虐さをもつ「佐竹」。
主婦4人の結びつきは何だろう。同じ悩みを持つシンパシーでもなく、絶望の共有化でもないのは確かだと思う。同僚の苦悩・行為がそこにあり、それにかかわることによって自分の脱出口とするきっかけにしたい、結びつきでもなんでもない単に同僚でしかないと考えた方が適当だろう。
頭(理屈)で考えず情念(本性)で走る4人の主婦、これは女性特有の本能の暗い部分なのか、それとも主婦のそれなのか、男性が持たない部分であることは確かだ。
小説は、フィクションでなかったと久留米の事件は物語った。

  • 読後感

この小説の評価は分かれると思う。スパイラル的感性の濃淡や心理を深くえぐるタッチはさすがではある、そこが桐野の骨頂であるが、多くの読者の読後にはえぐい感をひきずるかもしれない。
クライマックスが弱いとの印象の裏返しの結果、または最終章は一気に読むが、落しどころで物足りなさを感じてしまう未消化部分、これらが気持ち悪いという想いをひき立たせるのかもしれない。